【本の感想】世界一わかりやすい私募REITの教科書

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世界一わかりやすい私募REITの教科書

著者:初村美宏

発売日: 2016/1/30

 

AM業界に転職して1ヶ月も経たないころ、色々と本を読んではみたけど全部情報量が多く、細かく学ぶときりがないため、とにかく簡単でわかりやすい初心者向けの本を読みたいと思っていました。そんな時、金融業界に勤める友達に相談したところ、この本をおすすめしてくれました。ほんの少し業界を変えるとこういう旧交の温めがあってありがたいなあと思います。

 

著者は初村美宏氏、1961年生まれ。

東大経済学部→1984日本長期信用銀行入行→国内外の金融機関や物流会社を渡り歩いて2009年にセンコー株式会社という物流企業に入社し、2016年1月の出版時点では傘下のセンコー・アセットマネジメントど代表取締役とのこと。

この本はセンコー・アセットマネジメントが運用する私募REITのPR本ですね。

 

内容としては下記のような流れ。

①不動産証券化が誕生した経緯

②不動産証券化のメリット(現物不動産売買との違い)

③公募/私募/私募ファンドの違い

④各証券化スキームの違い・各プレイヤーの説明

⑤各種KPIの説明

⑥運用リスク

⑦私募REITのメリット・デメリット

 

いろいろな本を読んで、どの本にも共通して必ず①は語られるのですが、私はこのパートがすごく好きなんですよね。本によっては非常に熱く濃く語られていて、前段とはいえプラザ合意バブル崩壊の経緯が詳述されていたり、さらに遡って高度経済成長期や田中角栄日本列島改造論にまで戻ってみたり。もちろん淡々と時系列を並べていくスタイルのものもあります。

この本の場合はとにかくわかりやすさ重視なので、要約すると「バブル崩壊後の不良債権処理の過程で不動産証券化の必要性が叫ばれるようになり、2000年の投信法改正によって解禁された」という説明にとどまっており、非常にサックリとしております。

 

さて歴史的背景については塩対応なこの本ですが、しかし他の本に比べて明らかに秀でているところがあります。それは、初学者に対してあまり難しい言葉を使わずに不動産証券化の概念をざっくり・全般にわたって説明してくれているところ。

もちろんこの本だけで学びを完結させることはできないのですが、ざっくりと証券化メリット・要件・スキーム等を把握して次の書籍で細かい会計・財務等の知識を得ていく流れをつくれば効率的だなと思います。

 

また、J-REIT、私募REIT、私募ファンドの区別がぶっちゃけよくわからん私にとっては、私募の運用者としての視点でメリット・デメリットを説明してくれているのがありがたかったです。大きくは下記。

J-REITと比較した場合の価格安定性

・オープンエンド型であるため払い戻しがきくこと

・期間限定の私募ファンドと違い、売却時のキャピタルロスへの懸念がないこと

これにはそれぞれ「実際のところ…」という話もあるのでしょうが。。

 

あとがきに書かれておりますが、ちょうどこの本が出版される直前の2015年冬、GPIFの2015年7月~9月期の年金運用損益が7兆8899億円の赤字に転落したことが報じられたとのこと。赤字に陥ったのは6四半期ぶり、かつ過去最大の赤字額であったとのことでした。

要因としては保有資産の25%を占める国内株式の下落。

GPIFの運用資産はその35%が国内債券、25%が国内株式、その他を外国債など他の金融商品が占めている。単純な話ですが、市場競争にさらされている限り、運用資産の質に関わらないところで投資家はボラティリティのリスクを負うことになる。なので、年金運用基金のように長期的に資産を目減りさせずに運用することが目的となる投資家こそ、私募REITをお薦めしたい!というお話でした。

 

とはいえ、それでも市場で取引できることのメリットは非常に大きい…Amazonで買った本はメルカリで売っちゃだめだけどAmazonへの返品なら時価で買い取りますよってことですものね。(?)

 

こうやっていると、現状はとある箱の中の特定の数物件の期中運用が私の仕事なのですが、やっぱり職掌を広げて幅広く入口から出口までやっていきたいなあという気がします。日々の精進が大切ですね。コロナでなんもできんけどな。

 

以上、焼き鳥でした。